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六月は花嫁の季節⑦ [Le premier épisode]

明口を残し、俺達はぞろぞろと視聴覚室から退散してきた。クラスのばらばらな俺達営業部だが、二年のHR(ホームルーム)は同じ階にあるから皆向かう方向は一緒だ。
梶は相当怒っているらしくどしんどしんと音がするような小走りで階段を駆け上がる。踊り場のごみ箱に缶を静かに入れた蟹江が多少落ち込んでいることは俺にも判る。
「……蟹江、今日はどこへ生地を見に行く気だ?」
本気で買うなら日暮里だが、下見程度なら近所で済む。いや、そんなことが確認したいのではなく、蟹江に掛けるべき言葉が何一つ思い付かなかったのだ。
「梶がああ言ってくれたからには明口先生が予算を提示してくるだろうから、それ見て考えよう。トビーはやる気だね」
梶の心意気をちゃんと汲み取っている蟹江はいい奴だが、俺が無神経に製作に乗り気みたいな言い方をするのはやめて欲しい。俺は俺なりに気を使っているんだ。蘇鉄がむっとしたように振り返る。
「蟹江」
「蘇鉄っつぁん、解っているよ。トビーが腹を立てていたこともね。梶のあの提案はとてもよかった。あのお陰で文化祭の展示品作るんだと思って割り切って作れるよ」
梶の足が階段を昇り切った。
「キク、あんたあの真っ白いノート持ってきてる?」
梶は振り返らず言った。真っ白いノートとは藤原の私物iBookだ。あれには物凄い秘密兵器がやたら詰め込んである。梶のLet'sNoteとは比べ物にならない。
「うん、勿論」
「ホリー、蘇鉄君、用意してもらいたいものがある。いい?皆、明口なんか喜ばせないわ。でも儲け重視でもなく行くわ。目標は文化祭。忘れちゃ駄目よ!」
「おう」
蘇鉄の声に全員が頷く。 それを確認して蘇鉄も頷く。
「中間試験はいつものように取り零しなく行くぞ。営業部存続は毎回毎回にかかっている」
それにも全員が頷く。営業部が営利を上げても教師共もPTAも生徒会も何も言わないのは、俺達が試験を乗り切っているからでもある。内職しても指名されれば答えられるようにする、構想練ってぼさっとしてても順番がくれば走るし歌うし読む。だから誰にも文句は言わせない。
階段のど真ん中で結束を固めた俺達は予鈴の音と共に散会した。

結局誰も一言も、明口に『おめでとう』と言わなかった。


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