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六月は花嫁の季節⑤ [Le premier épisode]

「やっ、皆集まってるね!」
話の腰を折るように視聴覚室に来たのがここに八人を集めた張本人、明口椿だった。当年とって29歳、本人に言わせると『ギリギリ』なんだそうだ。ギリギリであるかそうでないかは置いておくとして、家庭科教師とは思えない豪放磊落な当部顧問である。
蟹江の顔から表情が消えた。
と言っても蟹江の場合、無表情があのアルカイックスマイルなのでその変化に明口は気付かなかっただろう。豪放磊落は半面、鈍感だ。
明口は浴衣縫いの授業が終わるや板垣達を追うように視聴覚室にやって来たに違いない。彼女達は放って置かれても悪さこそしないが、余り布と時間があればお手玉の量産を始めることは目に見えている。
「ね、お願いがあるんだけど」
お?手芸部営業課にお願いとは大きく出たな?三年と一年を避けてこの『営業部』呼ばわりされる二年だけを集めたからには対価を払う気がある、とそう考えてよいということか。
「あなた達に作ってほしいものがあるの」
明口は教壇へは上がらず、俺達が適当に座った席の中央辺りに椅子を引っ張ってきて座った。
「……それは顧問として言ってるの、せんせ?」
小鳥遊が無邪気な口調で核心を突く。顧問として言っているならこのお話とやらは眠たいだけだ。義務で作るものなんざ、嵩が知れている。
「顧客として、言ってるつもりなんだけどな」
明口は組んだ足の上に肘を突いた。安いナースシューズや運動靴を校内履きにしている教師が多い中、明口はオープントウだが黒皮のバックストラップのハイヒールを通している。多分あれはLIZの靴だろうと梶が言っていたっけ。お堅いスーツではないが常にそこそこの線を守り、OL向けの女性ファッション誌の『着回し一ヶ月』のような遊びはあるが隙のない装いを保っている。ケミカルレースで切り張りしたようなキャミソールなんざ絶対着ない。それが俺達顧問のセンスだ。


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