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飛永蓮のご挨拶 [Salut!]

 俺達手芸部の二年生は『手芸部営業課』と学校中から呼ばれている。理由は簡単だ。俺たちの一学年上、三年生が昨年の俺たちの活動振りを見て『営業課』呼ばわりしたからだ。確かに弱小部の頭数の大方を占め、生徒会から配分される僅かな活動費と部員から集める部費では賄い切れない資材費を俺達が稼ぎ出しているのだから、当然と言えば当然、この呼称は勲章みたいなものだ。
 今、小鳥遊(たかなし)が夏用ビニルバッグを製作中だ。木槌でハトメをがっつんがっつん叩いている。その横で藤原がそのバッグ用のインナーバッグをミシンがけしている。ペダルの踏み込みは深く、断続的で迷いがない。ガッとかけて生地をクルリと回し、またガッと縫う。しつけ縫いが完璧な証でもある。その縫い上がった巾着(巾着と呼ぶなと言われてたっけ……インナーバッグと読んでくれ)を板垣が表返して紐を通し、ロープエンドを付けたり、タッセル(これもつい房とか言いたくなっちゃうんだよな……)を括りつけたりしている。最後に梧桐(ごとう)がそれぞれに林檎だの蝶だののバッグチャームをつければそんじょそこらのファッションビルで売っているより遥かに出来のいいバッグが量産されるという寸法だ。それら梶が作品群に注文者と価格の入った票をつけ、原価計算をし直し、利益を確認する。手芸部営業課女性陣総出で作る個数限定・セミオーダビニルバッグ。個数限定とはいうものの、百近くは作るし、セミオーダだからほぼ同じものはいくつかある。今年は何年か前のゲラン風に褐色のバッグベースビニルを使ったシックゴージャスな物からどう見ても小学生のプールバッグにしか見えないチープ感たっぷりな物もある。
 このアマゾネス達にかかっては百個のビニルバッグなんてあっという間だ。夏万歳。トレンドを作り出すデザイナーが後を絶たないのも容易に頷ける。
 梧桐の厳しい声がかかる。
「トビー!チェーン足んないよ!」
 はいはいよ。
 手芸を女性だけのものと思い込んでる人々には申し訳ないがエディ・スリマンだってクリス・ヴァン・アッシュだってアルベール・エルバスだってトム・フォードだってカール・ラガーフェルドだって皆男じゃないか。だから俺の他にあと二人男もいる。男女間に差異があるとしたら俺のほうが多少握力があるのと、俺担当の作品メニューがないってことぐらいだ。握力が役に立つならニッパ担当くらいお安い御用だ。
 この夏、学校の周りでまるでブランドバッグの流行のように手芸部営業課のこのラインのバッグがうようよするんだろうなと、そんな想像しただけで楽しくてたまらない。

 多分『手芸部営業課』の連中は皆そう思っている筈だ。俺には確信がある。


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